湖西線の逆線走行
前回の記事でご紹介した湖西線の1986年4月の配線図には信号機の進路が記載されており、これを見ていますと逆線走行に関していろいろ気づかされることがありましたので今回はそのあたりを書くことにします。
(湖西線において、下り線を上り列車が、もしくは上り線を下り列車が走行できるようになっていた設備については「単線並列」ですとか「双単線」など表現されているようですが、個人的にはどうもしっくりこないのでここでは「逆線走行」という言葉を使用することにしました(汗)。)
まず、改めて1986年4月の西大津駅~堅田駅間の配線図を掲げます。
●信号機の進路について
・下り方向では、西大津駅の23Rは下り線から3番線への場内信号機で、33Rは3番線から上り線への出発信号機です。ですので下り列車は23R→3番線→33Rのルートで上り線に進入することができます。3番線限定で4番線は通れません。
・西大津駅で上り線に進入した下り列車は雄琴駅を23R→3番線→33Rで通過します。
・続く堅田駅の上り線の下り場内信号機22Rの進路は2番線となっています。2番線の先は下り線しかありませんので、堅田駅で下り線に戻ることになります。西大津駅で上り線に進入した下り列車は堅田駅より先で引き続き上り線を走行することはできないようになっているのです。
・上り線も同様です。上り線を走ってきた上り列車は堅田駅で13L→3番線→23Lで下り線に進入し、雄琴駅を32L→2番線→22Lで通過した後西大津駅で32L→2番線→22Lで上り線に戻ります。
堅田駅~近江舞子駅間でも見てみます。
・西大津駅~堅田駅間と同様です。下りは堅田駅で23R→3番線→33Rで上り線に進入し、近江舞子駅で22R→2番線→12Rで下り線に戻ります。
・上りは近江舞子駅で13L→3番線→23Lで下り線に進入し、堅田駅で32L→2番線→2Lで上り線に戻ります。
このように湖西線は逆線走行に関しては西大津~堅田や堅田~近江舞子が一つのブロックとして区切られており、逆線走行はこのブロック内でしか行えないようになっています。近江舞子より先では近江舞子~安曇川、安曇川~近江今津、近江今津~マキノ、マキノ~永原、永原~近江塩津がブロックとして区切られており、全体では7ブロックに分けられています。
模式的に表すと下り線の場合はこんな感じです。
西大津で上り線に入ったら堅田で戻る、堅田で上り線に入ったら近江舞子で戻る、近江舞子で上り線に入ったら安曇川で戻る・・・、といったパターンが繰り返されます。西大津で入って近江舞子で戻る、ということはできません。
●閉そく区間について。
・基本的には、各ブロックとも逆線走行時はブロック内1閉そくです。西大津~堅田間のみ雄琴を境に閉そく区間が分けられていますが、これは雄琴駅に分岐器があるためでしょうか。さすがにこれを利用した続行とかすれ違いはないと思うのですが。
・逆線走行用として、方向てこ的なものが設けられていたのでしょうか。
●遠方信号機
・逆線走行実施時、もし閉そく方式が自動閉そくなのであれば、例えば安曇川駅の上り線の下り場内信号機23Rが停止現示のとき、近江舞子駅の上り線下り出発信号機33Rは注意を現示することになります。しかしながら近江舞子駅~安曇川駅間は12.8kmもありますので、そのようになっているとは考えずらい気もします。特殊な取り扱いで、場内信号機の現示とその手前の出発信号機の現示の間には関連づけが行われていないのかも。
・しかし、もし関連付けが行われていないのであれば、場内信号機の手前で場内信号機の現示を予告する手段がないと危険ですよね。でも見たところ遠方信号機は設けられていません。中継信号機が設けられているところもありますが、上記の安曇川駅の23Rのように設けられていないところもあります。運転士さんは先の場内信号機の現示をどうやって予測していたのでしょう。
鉄道ピクトリアル誌1969年12月号と同1974年7月号には湖西線に関する記事が掲載されているのですが、その中には逆線走行に関する記述はありません。Wikipediaではさらっと触れられていて、その目的とするところは深夜の保守間合いの確保とのことです。保守間合いの確保という計画的な使用が想定されていたのであれば、逆線走行がブロック内に限定されることと矛盾はないように思います。
その後貨物列車の減少により2004年に逆線用信号設備が使用停止されたとのことです(Wikipedia)。せっかく設けたものを何も撤去しなくても、という気もしますが、撤去費用をかけてでも設備を維持するコストを削減しなければならなかった、ということなのだと思います。実際に使用されたのはいったい何回ぐらいだったのでしょうか。
配線図はT.Mさんよりご提供いただきました。
ありがとうございます。
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f54560zgさん、こんばんは。いつも興味深い記事をありがとうございます。また、貴重な配線略図をご提供のT.M様にも深く感謝申し上げます。
湖西線の逆線走行について、国鉄時代の資料なのですが、「湖西線における単線運転について 昭和50年3月 大阪鉄道管理局」という文書資料を私のHPにアップロードしましたので、なにかの参考になれば幸いです。
URLは、こちらですので、
http://railwaytrackdiagrams.web.fc2.com/others/others20231224.html
興味のある方は、どうぞご高覧いただければと思います。
私のHPのCMも兼ねておりまして(汗)、失礼しました。
投稿: KASA | 2023年12月24日 (日) 02時21分
KASAさん
いつもお世話になっております。
貴重な資料をありがとうございます。まだほとんど目を通せておりませんが、ワクワクしながら拝見したいと思います。
投稿: f54560zg | 2023年12月24日 (日) 10時14分
湖西線は、国鉄時代の1970年代末に京都~金沢間を雷鳥で往復したのと、沿線の民宿に行った時に乗ったきりになり「逆線走行」という興味深い記事をありがとうございます。
深夜の保守の合間に貨物列車を走らせる為、だったとのことで、夜間の走行写真はまず望めませんし。このような玄人受けするのは、オークションサイトに運行図表や運転士スタフ等が出ていたりしますから、探すとやはり、
「国鉄・JR西日本『湖西線 単線運転取扱手続』 『変更時刻表』 貨物列車 レア物」
がありました。検索エンジントップからでも以上で検索すれば、見つかると思います。
下りの貨物4097列車が、
永原~近江塩津の上り線を単線運転する変更時刻は
堅田333→近江舞子344→安曇川354→近江今津401→マキノ407→414永原(3番線)417→交直セクション→426近江塩津(西下=2番線?)428→新疋田437
永原駅付近で日の出が一番早い日と時刻は、夏至前の6月10日前後で4:40ですから。この下り貨物レを、デッドセクション辺りの上り線を走行中を撮られた方が、おられるやもです。
投稿: moni5187 | 2023年12月24日 (日) 19時09分
moni5187さんの提示いただいた資料を見ると、結構な頻度で行われていたようですね。
もともと近畿地区は、夜間の保守間合い確保のため、複々線のうち列車線(外側線)を電車線(内側線)に振り替えることが頻繁に行われていました(今もやってるのかな?)ので、日常的感覚で施行されていたのではないでしょうか。
ちなみに西明石駅の富士の脱線事故は、確か電車線走行の日で、機関士が振り分けの分岐器を直進側の速度で突っ込んだのが原因だったと思います。
投稿: 北東航21 | 2023年12月25日 (月) 12時36分
今でもサンライズに乗っているとかなりの確率で電車線走りますね。
投稿: AsaPi! | 2023年12月25日 (月) 22時14分
肝心なことを書き忘れていました(汗
湖西線で逆線走行させようという発想は、前提として踏切が無いというのがあるかと思います。
踏切あると、逆線走行用の地上子をつけなきゃいけないので、コストも保守も大変です。
投稿: 北東航21 | 2023年12月26日 (火) 09時45分
「配線と信号で読み解く 湖西線」という、同人誌が出されています。電子書籍になっています。
投稿: NZ | 2023年12月26日 (火) 12時31分
「信号と配線から読み解く 湖西線」でした。
サンパチタブレット が発行元です。
投稿: NZ | 2023年12月26日 (火) 12時34分
皆様
貴重な情報ありがとうございます。
KASAさんの資料を拝見すると、年間240日の使用を想定していたようですね(あくまで計画でしょうが)。
それと、どうしても気になること、「場内信号機の現示の予告」ってどうなっていたのでしょうか。ご存じの方、お教え下さい(汗)。
投稿: f54560zg | 2023年12月27日 (水) 19時38分
逆線運転の中継信号機
各種資料から検討してみました。
手元の湖西線線路図(昭和48年10月。機関士(運転士を含む。)の線路見習い用だったようで、配線図と縦断面図が一緒になったもの)を見ると、湖西線は在来線とはいっても、たいへん線形が良くて、直線区間が多く、曲線も半径が1000メートルを超えるようなゆるいものがほとんど、また高架線上を走る区間も多いことがわかります。
このため、信号機の見通し距離が確保できるためか、平常時に順方向へ運転する時の信号機に対して、中継信号機があまり設置されていないことがわかります。
これは、逆線運転の時の場内信号機の見通し距離についても言えることで、実際、トンネル(マキノ31L、雄琴23R、西大津23R)や勾配(近江舞子22R)で、見通し距離が確保できない場合は、中継信号機が設置されています。(堅田32Lは曲線と勾配両者か。)
なお、近江舞子32Lは、高架線上にあって、順方向上り場内信号機13L,、14Lにも中継信号機が設置されていませんから、見通し距離は確保されていたものと考えられます。近江舞子駅の約2キロ手前には北小松駅があって、近江舞子駅への接近は意識づけがしやすいかもしれません。
ところで、逆線運転用の場内信号機は、停止と注意しか現示しません。KASAさんの資料によれば、当該信号機の手前4キロから1キロごとに駅名標を設置することになっていますが、これは、機関士に45キロ以下に減速すべき信号機への接近の確認とブレーキ手配とを促したものと考えられます。このため、仮に当該場内信号機が停止信号を現示していても、列車が最高速度で接近していることはなく、当該場内信号機の確認位置からブレーキを手配すれば信号を冒進することはないと、考えたのではないでしょうか。
新幹線にも停車場接近標があって、これはATCによらずに運転するときに、運転士に停車場への接近を知らせるというものです。
そもそも、単線運転や逆線運転は、特別な運転取り扱いなので、いきなり停止信号を確認することもあることは、機関士に伝えられていたのではないでしょうか。乗務の点呼でのやりとりを知りたいところです。
手元の湖西線の線路図は、折を見てブログにアップし、皆様の研究のお役に立てるようにしたいと思います。
投稿: NZ | 2023年12月28日 (木) 00時39分
NZさん
確かにおっしゃる通り、実際の運用上は問題となるようなことはないのかもしれません。
規定上どのようになっていたのかが気になります。
投稿: f54560zg | 2023年12月30日 (土) 21時13分
NZ様
コメント拝読いたしました。ご教示ありがとうございます。丁寧でわかりやすく勉強になりました。
f54560zgさん
逆線運転・終端の駅の場内信号機が、なんらかの事情で停止現示であると、逆線運転・始端の駅の出発信号機(3現示)は、注意現示になるはずですので、ダイヤ上、大丈夫なのかと思ったりもします。
そのような状況の時は、そもそも単線運転を始めらない(施行できない)のか・・・気になっております。
特段の規定がない部分は、結局のところ、運転取扱基準規程、CTC運転取扱基準規程に従うのではと思われますが、昭和60年頃の大阪局CTC規程などになにか書かれていたのか、興味深いところだと思います。
今年もお世話になりました。来年もまたよろしくお願い致します。
投稿: KASA | 2023年12月31日 (日) 18時34分
湖西線の逆線運行、結局研究止まりだったんでしょうね。
「並列単線閉塞」ってやつでしたっけ。海外では駅間にシーサスクロッシングがあって大胆に上下交換をやりますけど、日本の運行方式では馴染まなくて結局沙汰やみに・・・
新車の試運転やら、高速試験、信号通信の研究・・・国鉄時代の湖西線って試験線を兼ねた営業線だったのかもしれません。
投稿: denwamgr | 2024年1月 1日 (月) 11時34分
KASAさん、本年もよろしくお願いいたします。
国鉄時代の運転取扱基準規定の中には単線自動閉そく(特殊)って規定されていないようで、そこがモヤモヤの元です。
denwamgrさん
湖西線はいろいろな試験の場だったのですね。
投稿: f54560zg | 2024年1月 3日 (水) 17時11分
f54560zgさん、こちらこそ本年もよろしくお願いいたします。
単線自動閉そく(特殊)に関する規定は、他の自動閉塞式と取扱いが同じ部分は、運転取扱基準規程に従い、取扱いが違う部分は、局の規程か、または、通達によっていたようです。どこに規定するかという個々の扱いは鉄道管理局によって異なっていたようです。規定や通達の文言は、各局ほぼ一緒だったのではと推測しております。
私のHPの「川越線」のところで、東京北局の単線自動閉そく(特殊)に関する規定をアップしておりましたのでご高覧いただければ幸いです。アップしたことを完全に失念しておりました(汗)。
URLは以下で、(2)の<参考事項>のところです。
http://railwaytrackdiagrams.web.fc2.com/tokyo_north/kawagoe/oomiya_nisshin.html
なぜ運転取扱基準規程を改訂して、そこで単線自動(特殊)に関する事項を規定しなかったのか・・・疑問であり、興味深くもあります。
投稿: KASA | 2024年1月 7日 (日) 19時19分
KASAさんのコメントを見て、手元の資料を探してみたら、「盛岡鉄道管理局列車運転特殊取扱基準規程」に、「遠方信号機を設けた自動閉そく式施行区間における運転取扱方」という規程があるのを見つけました。
ブログ「鉄道資料箱」にアップしましたので、ご覧いただければと思います。
なお、JRの運転取扱の規程では、この種の特殊な閉そく方式も独立した方式として扱っているようです。省令の改正も関係しているのかもしれません。
投稿: NZ | 2024年1月 8日 (月) 23時46分
KASAさん、NZさん、貴重な情報ありがとうございます。単線自動閉そく(特殊)における取扱いがよくわかりました。KASAさんの資料とNZさんの資料はおおよそ同じ内容といった感じですね。
湖西線の単線運転が単線自動閉そく(特殊)に準じたものではないかと推測していたのですが、どうも別モノのようです。今更ですが、出発信号機が注意を現示する時点で別モノとわかりそうなものです(汗)。いずれにせよ湖西線固有の規定があったのだと思います。
なお、単線自動閉そく(自動A)についても、確かやわやわとまれさんとKASAさんに教えていただいたのですが、磐越西線のように閉そく信号機を実質遠方信号機扱いにして出発信号機に注意を現示させない取り扱いもありますね。
投稿: f54560zg | 2024年1月11日 (木) 22時32分