発条転てつ器の鎖錠 その2
少し前に発条転てつ器と機械式信号機の連鎖についての疑問の記事を書かせていただきました。
これに対し、3RT生さん、takezouさん、ちさんよりコメントをいただきました。ありがとうございます。
なるほど、と納得する一方、また新たな疑問が湧いてくる面もあり、改めて整理したいと思います。
まず、「発条転てつ器に甲号連動機を使用するとどんな理由によりどんな不具合が起こるのか?」 について。
これについてはtakezouさんから2つのご説明をいただきました。
一つ目は、発条転てつ器と第二種機械連動機 (信号保安第6巻第8号)。
これについては直接確認することができなかったのですが、検索していたら福島臨海の事故の件が見つかりました。
航空・鉄道事故調査委員会の鉄道事故報告書(平成15年10月31日付)にその詳細が記述されており、先端軌条が不戻りとなったところへ対向列車が進入して脱線した、という内容です。
(余談ですがこの報告書には連動機の構造や動作などが書かれており、それ自体「!」と感じる部分があったのですが、これについては後程。)
連動機のメンテナンスがきちんと行われないとその機能が不完全となり、先端軌条が不戻りでも場内信号機を引けてしまう恐れがある、ということですね。メンテナンスが行われないことによる連動機の機能不全は普通転てつ器でも起こりうると思いますが、この場合は転てつ器の転換ミスが重ならない限り事故にはならない、ということでしょうか。
信号保安第6巻第8号の内容がこれとは違うものであれば、その概要をお教えいただけると幸いです。
二つ目は、以下のコメント。
>ここで,例えば下り本線場内信号機を反位から定位に復位した場合を考えます.
>下り本線場内腕木信号機のウエイトリバーが落下し信号ワイヤーを信号機側に引き戻しても,特に場内信号機は信号扱い所や第二種機械連動機から信号機までの距離が長い場合も多く,信号ワイヤが寒暖の影響を受けやすいため,第二種機械連動機の信号かんを定位まで引き戻しきれない場合が発生することがあります.
>この状態でも,下り本線場内信号機の信号てこ(てこ番号1)は定位にあるので,上り本線出発信号機の信号てこ(てこ番号3)は反位とすることができます.
>そのまま上り列車が出発し21号転てつ機を反位背向通過すると,甲3A第二種機械連動機は下り本線場内信号機の信号かんが定位に収まっておらず,21号転てつ機を定位に鎖錠していて割り出し不可能状態のため,破壊されることになります.
場内信号機のてこを復位したにもかかわらずワイヤーの伸縮等で信号かんが戻らないことが起こった時、背向から割り出すと連動機を破壊してしまうということですね。ワイヤーの伸縮は普通転てつ器でも発生しますが、この場合は転てつ器が転換できない、で済みますね。力持ちの職員だったら連動機を壊してしまうかもしれませんが。
次にSP甲連動機と照査形連動機について。
以上のような不具合の対策としてまずSP甲1号連動機が開発され、さらに改良された照査形連動機が登場した、という流れになるのでしょうか。SP甲連動機は純粋に機械的な仕組みですが、照査形連動機は接点で電気回路を切り替える方式のようです。
3RT生さんからは以下のコメントをいただきました。
>伊勢奥津の照査型の連動機は電磁転てつ鎖錠器のような細長い型で、小生の馴染みの駅にもありました。
>他にも、甲号と同じ形のSP甲1号というのもあったはずで、文献でみたことがありますが現物を観察したことは残念ながらありません。
私は伊勢奥津駅はSP甲だと思っていたのですが、ということはSP甲ではなく照査型ということでしょうか。
伊勢奥津駅の信号てこは下写真のようになっており、電気鎖錠器や表示灯といった電気回路に関わるようなものは設けられていないようです。
照査形だとすると、照査した結果をどこに反映しているのかが不思議になります。
また、照査形連動機が照査しているのは信号かんだけでしょうか? 転てつかんは照査していなのでしょうか?
ところで先に触れた鉄道事故報告書に記載された連動機の構造と動作の件について。
ちょっとびっくりしたのが、転てつかんの受部が摩耗した場合を想定して、てこと信号機の接続を遮断する機構が設けられていること。これは通常の連動機にも設けられているものなのでしょうか。それとも発条転てつ器用の特殊な構造なのでしょうか。福島臨海線の場合は残念ながらこの機構も機能しなかったわけですが。
ついでに機械連動駅の発条転てつ器の写真をいくつか。
1980年3月16日 信楽
連動の範囲外なので連動機はありません。
さらについでに、甲号連動機(SP甲でも照査形でもありませんが・・・(汗))の写真をいくつか。
1979年8月7日 会津坂下
1979年8月24日 丹後山田
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f54560zgさん、こんばんは。
これだけの量の第2種連動機を一挙に拝見できるとは、感激です。特に、戻っていくワイヤをどう通していたかのか?が分からずにいましたので、大変勉強になりました。
さて伊勢奥津ですが、場内・出発ともに定位側のルートですので、本来なら「甲2A」で済む所です。照査型にした理由があるとすれば、機回し等をする際に割り出し可能の状態を確認するため表示灯等を設けていたのかな?と思いますが、意外と、どこかの発生品を転用しただけなのかもしれませんね・・
なお、照査型第2種連動機は信号かんのみを照査しておりました。「小生の馴染みの駅」近く拙ブログで紹介できると思います。また相乗り記事になりすみません(汗)
投稿: 3RT生 | 2019年5月 9日 (木) 23時36分
こんばんは.
信号保安第6巻第8号(昭和26年8月号)の「発条転てつ器と第二種連動機」(四鉄信号主幹付 平野浩一郎氏)によれば,
(1)発条転てつ器の設置開始後3年で106組を設置したが,様々な事故があった.
(2)信号かん復帰不良によるものは,ワイヤ保守不良25%,ウエート保守不良(砂鉄製代用ウエート)8%,転てつかん圧迫8%,発条転てつ器取扱不良(入換中途中転換)34%,信号機誤扱い(場内信号機復位失念)25%であった.
(3)不正割出の場合,連動機がコーチスクリューや犬釘で枕木に取り付けられた物は外側に5度程度傾斜したが,爪ボルトで固定された物は移動しなかった.
(4)不正割出後も信号かんはほとんどの場合反位に引ける状態であった.
(5)事故例では,背向不正割出時には,ともかく先端軌条を強引に割出列車は無事通過している場合がほとんどであり,次の対向列車において重大事故となっている.
と記述されています.したがって,f54560zgさんの書かれているとおり,不正割出した後の先端軌条の密着不良等により事故になるようです.
しかし,(2)で信号機取扱不良の割合が結構高いことに驚かされます.この当時は発条転てつ器設備駅には出発信号機が無かったので,場内信号機復位失念のまま出発合図を出してしまうことがあったのでしょうか.後に出発信号機が設置されてからは対向進路の信号機間は,第二種機械てこ背面のてこ連鎖で抑えるようになったので,出発信号機を反位にするためには場内信号機の復位が絶対に必要になったので,このような事故は無くなったのでしょうが….
詳細がお読みになりたければ,送付先をメールいただければ,PDFをお送りします.
投稿: takezou | 2019年5月11日 (土) 21時05分
3RT生さん、takezouさん
コメントありがとうございます。
発条転てつ器には苦労が多かったのですね。それでも現在でも使用されているわけですから、改良の歴史が詰まっているのでしょうね。
投稿: f54560zg | 2019年5月12日 (日) 20時12分
takezouさんの書かれている本の頃(終戦間もない頃)は、今では考えられないですが
・輸送需要に設備改良が全く追いついていないので、(場内・出発信号機の設備されていない)側線を副本線代用として、手信号で列車を進入出させることがあった
・貨物列車の場合で、側線に留置されている貨車を連結したあと、(本来は本線に入換で据え付け直してから出発信号機で発車させるべきところ)横着して側線から手信号で発車させた
等々の際にヘマをやって割り出すというのが結構あったようです。
事故になるのは氷山の一角でしょうから、実態はそこらじゅうで似たようなことをやっていたのかもしれません。。。
投稿: 名無し信通区 | 2019年5月14日 (火) 00時02分
名無し信通区さん、混乱期はいろいろあったんですね。それにしても
>入換中途中転換34%
は結構スゴイかも。
投稿: f54560zg | 2019年5月16日 (木) 19時44分