発条転てつ器の鎖錠 その3
少し前に機械信号機と発条転てつ器の組み合わせの記事を2つ書きましたが、今回は電気信号機と発条転てつ器の組み合わせのお話です。参考文献は 原英雄著 運転保安装置 昭和42年 です。
まず、富山港線城川原駅の連動図表をご紹介します。
連動装置は第2種電気です。機械連動機の代わりに使われているのは電磁鎖錠器で、連動図にはMの記号が付けられています。
現物はこんな感じ。
1979年10月5日、城川原駅の51号転てつ器です。転換機の右にある直方体状のものが電磁鎖錠器ですね。
資料には電磁鎖錠器のメカニズムがおおよそこんなイメージで描かれています。
基本的には機械連動機と同じですが、電気信号機ですので信号ワイヤーと結ばれた信号かんはなく、代わりに電磁石で動作する鎖錠かんが設けられていてこれが転てつかんと勘合します。
図には描かれていませんが、鎖錠かんの位置を照査する機能を持っていると思われます。
ここで連動表に戻ります。
真っ先に目が行くのは、上下の出発信号機の鎖錠らんに書かれた□のついた転てつ器番号ですね。
上り出発信号機に着目して城川原駅と伊予長浜駅を比べてみます。
城川原駅の場合、1Rの鎖錠欄に背向となる発条転てつ器の番号21が□に囲まれて書かれています。
一方伊予長浜駅の場合は3の鎖錠欄に同じ関係となる転てつ器21の番号は書かれていません。
城川原駅の場合、□21が書かれていようがいまいが1R反位では 21は割り出し可能なハズ。それなのになぜあえて□21を書くのかがわからないでいたのですが、最近の3RT生さんやtakezouさんのコメントを拝見してようやくその意味が分かったような気がします(気がするだけですが(汗))。
伊予長浜駅は機械連動であり、転てつ器21の連動機は甲3号です(図が正しければ、ですが)。甲3号連動機には信号かんの位置を照査する機能はなく、信号ワイヤーの伸縮等により信号かんの位置がずれて転てつかんが解錠されていなくても3に進行を現示することができてしまいます。
これに対し城川原駅の場合の電磁鎖錠器は鎖錠かんの位置を照査する機能を持っており、確実に転てつかんが解錠されている場合のみ1Rに進行信号を現示できるようになっているようです。
すなわち連動機に転てつかんの解錠を検知する機能があるかないかで□が書かれたり書かれなかったりするように思います。これは連動図表を作成する側の論理ですが、連動図表を見る側としては、「□が書かれていれば安心だけど、書かれていない場合は日頃の点検をちゃんとやらないと・・・」といったことになるのでしょうか(笑)。
ここでは機械連動機と電磁鎖錠器とを比較しましたが、機械連動機でも照査機能を持つ照査形連動機の場合は連動表に□が書かれるものと思われます。
もう一つ実例を。
牟岐線立江駅です。
立江駅の配線を見ると、この駅では発条転てつ器を反位に転換することは考えられないと思うんですよね。転換機のレバーを取り外して反位に転換できなくしてしまってもいいのでは?と思うくらいです。
仮に反位に転換することがないとなると、電磁鎖錠器の本来の目的である「信号機と転てつ器の連鎖」は不要なわけですから、電磁鎖錠器がなくてもよいのではないかと思ってしまいます。しかしながら実際には電磁鎖錠器が設けられているわけで、その理由は先端軌条の不戻りが発生した際、場内信号機を引けなくするためだと思われます。「信号機と転てつ器の連鎖」 ではなく発条転てつ器の宿命である 「先端軌条の密着の確保」という役割を担っているのでしょうね。
ということであれば、電磁鎖錠器でなくとも先端軌条の不戻りさえ検知できればいいわけで、実際このような例もあります。
2019年3月31日、上田電鉄城下駅です。発条転てつ器を反位にすることはないと思われる駅で、写真の通り電磁鎖錠器は設けられていません。代わりに設けられているのは赤丸部の回路制御器で、これで先端軌条の密着を照査します。回路制御器は先端軌条が通常密着している側にのみ設けられています。
もっともこの回路制御器も完全というわけではなく、南阿蘇鉄道の事故例もあります。
以下、写真をいくつか。
2019年5月18日、小海線臼田駅です。電磁鎖錠器と回路制御器の両方が設けられています。
1980年5月25日、陸羽西線清川駅です。転換機のすぐ右側の箱も回路制御器で、ここも電磁鎖錠器と回路制御器の両方が設けられていることになります。但し回路制御器が設けられているのはどうも併合閉そくの関係らしいのですが、詳しいことはわかりません(汗)。
回路制御器が信号現示の条件の一つとなると連動図表にもそれが反映されるような気がします。私は見たことがないのですが、どのような連動図表になるのでしょうか。異常が発生した場合の話なので連動図表には関係ナシ、かもしれませんね。
配線図はt_yosiさんよりご提供いただきました。
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コメント
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f54560zgさん、こんばんは。
いよいよ、電磁転てつ鎖錠器の登場ですね。
今回も数多くの実例写真をありがとうございます。
「解錠されるもの」の□については、おっしゃる通りと思います。
転てつ回路制御器の連動図表への記載は、信号制御欄に出てきます。以前ご紹介いただきました予讃本線端岡駅の例では、出発信号機 3Lに対する71号が該当するのかな?と思います。電気鎖錠器付き(回路制御器を内蔵しているわけですが)であれば、鎖錠欄に記載されるのでしょう。
すみません、また、相乗り記事を書かせていただくことになりそうです・・(大汗)
投稿: 3RT生 | 2019年5月20日 (月) 00時15分
すみません、追記です
転てつ回路制御器のコメントを致しましたが、発条転てつ機の電磁転てつ鎖錠器と併用の場合はどのように連動図表に記載されているのかは、小生も存じておりません。
投稿: 3RT生 | 2019年5月20日 (月) 00時27分
f54560zgさん、3RT生さん、みなさん、こんばんは。
「発条転てつ器の鎖錠」シリーズ、 コメント欄も含めて、大いに勉強させていただいております。ありがとうございます。
転てつ回路制御器が、発条転てつ器の電磁転てつ鎖錠器と併用される場合なのですが、f54560zgさんが本文最後で触れられている「併合閉そく」が施行される区間の場合で、発条転てつ器を反位にも鎖錠する必要があるため、それを照査するために転てつ回路制御器が設けられるようです。
この場合、「併合閉そくてこ」により、当該発条転てつ器が反位に鎖錠されるので、「併合閉そくてこ」の行がでてきて、その行の鎖錠欄に、「転てつ器番号に丸」(反位鎖錠)と記載されるようです。
投稿: KASA | 2019年5月21日 (火) 00時38分
みなさんこんにちは。
〉KASAさん
なるほど、定反位形の電磁転てつ鎖錠器が使われている場所ですね。電磁転てつ鎖錠器ではどちらに転換されているのか照査できないので、回路制御器を用いるということになるのでしょうか。定位のみで鎖錠する時には不要ですね。画像をよく拝見すると、転てつかんに反位側の切れ込みがあるようです。
大変勉強になりました。ありがとうございます。
投稿: 3RT生 | 2019年5月21日 (火) 16時50分
3RT生さん、KASAさん
発条転てつ器って、わかっているようでなかなか難しいですね(汗)。いろいろと問題があったようですが、今でもあちこちで見ることができますので、課題を克服してきたんでしょう。
投稿: f54560zg | 2019年5月23日 (木) 19時46分
おはようございます。
ちです。
発条転てつ器についている『電磁転てつ鎖錠器』については、みなさんの回答でほぼ答えが出ているので、記載しません。
発条転てつ器に電磁転てつ鎖錠器の組み合わせは、今現在使用されてますので、発条の2種連動としては、もう完成系で発展はないでしょうね(笑)
少し関係ないかもしれませんが、
発条転てつ器にも、ロック狂い検出器が設置でき、ロックピースと鎖錠カンの位置がずれてきたら、鎖錠不能になる前に事前に検知する機能もあります。
もう一つ関係ありませんが、2種等にある連動図表の番号欄 たとえば2Rに○がついている理由についても、調べると楽しいですよ。←すでに他のページで解説されていたらすみません・・・。
投稿: ち | 2019年6月 2日 (日) 06時44分
ちさん
今や各種技術が進歩していますので、切り欠きを勘合させる方式にはどうしても前時代的な古めかさを感じてしまいますね。
投稿: f54560zg | 2019年6月 2日 (日) 18時19分