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2014年11月30日 (日)

電気転てつ器

唐突に電気転てつ器の話です。

電気転てつ器に限らずすべての転てつ器転換装置において言えることなのですが、求められる機能として、
1)先端軌条を動かす。
2)先端軌条を基本軌条に密着させる。
があります。

今回は電気転てつ器が上記2つをどのようなメカニズムで実現しているのか、という話です。

なお、一口に電気転てつ器といってもいろいろな種類があるようですので、以下はそれらのうちの一つのパターンに限っての話です。

まず最初に全体的な構成です。
1r

上図は電気転てつ器の構造を簡単なモデルで表現したものです。
・図示していませんが動力源はモータで、その回転運動を歯車等で減速し、最終的にはA点を中心にローラーを回転運動させます。
・挿入鎖錠かんはローラーと接触するカム面を有し、図の左右方向に往復運動できるよう支持されています。
・動作かんと鎖錠かんはいずれも分岐器の先端軌条に固定されており、図の上下方向に往復運動できるよう支持されています。
・鎖錠かんには2か所の凹部が、挿入鎖錠かんには1か所の凸部が形成されており、これらは互いに係合が可能になっています。
・動作かんにはローラーと係合するU字型の溝が形成されています。
(何か特許の明細書のような書き方になってしまいました(汗))。
まあ、あまり細かいことは気にしないで、あくまでイメージとしてとらえて下さい。

次に動作の説明です。

21r
・この状態を定位とします。
・鎖錠かんの一方の凹部と鎖錠挿入かんの凸部が係合していて、鎖錠かんは固定(鎖錠)された状態になっています。
・動作かんはその動きを規制されていませんので、先端軌条の密着を確保しているのは鎖錠かんということになります。
・今、反位に転換しようとしてモータに通電を行いますと、ローラーは矢印方向(時計回り)に回転を始めます。

22r
・ローラーが90°回転すると上図のようになります。
・ローラーは動作かんのU溝に係合しますが、ここまでの間では動作かんは動きません。
・一方、挿入鎖錠かんはカム機構によって図の右方向に動き、結果として鎖錠かんの凹部と鎖錠挿入かんの凸部の係合が外れます。
・すなわち先端軌条が解錠されたことになります。

23r
・ローラーが180°回転した状態です。
・動作かんのU溝に係合したローラーは動作かんを図の下方向に動かします。その結果先端軌条が動作し、これと連結された鎖錠かんも図の下方向に移動します。
・ローラーは挿入鎖錠かんのカム面を移動しますが、カム面はローラーの軌跡と同心円となっているため挿入鎖錠かんは動きません。

24r
・ローラーが270°回転した状態です。
・ローラーは動作かんをさらに図の下方向に動かし、先端軌条を反対側の基本軌条に密着する状態まで移動させます。
・先端軌条と連結された鎖錠かんも同様に下方向に移動します。
・挿入鎖錠かんはやはり動きません。

25r
・ローラーが360°、すなわち1回転した状態です。
・ローラーは動作かんのU溝から外れるため、この間のローラーの回転によって動作かんが動くことはありません。
・一方、挿入鎖錠かんはカム機構によって図の左方向に動き、鎖錠かんのもう一方の凹部と挿入鎖錠かんの凸部が係合します。これによって鎖錠かんは固定され、すなわち先端軌条が鎖錠されます。

以上の一連の動作で反位への転換が完了したことになります。
定位に戻すにはモータを逆転させます。

現物はこんな感じ。

P1050533m
・掛川駅です。
・残念ながら中身までは見えませんが(汗)。

以上のように電気転てつ器の転換動作は
1)先端軌条の解錠
2)先端軌条の移動
3)先端軌条の鎖錠
の3つの工程からなっているわけで、これらを1つのモータの回転運動だけで行うために複雑な機構になっているのだと思われます。

また動力伝達の最終のアウトプットである先端軌条のさらに下流側に「鎖錠かん」が設けられているのは、伝達経路上に異常が発生した場合を想定したものではないかと思われます。

鎖錠てこ式の場合には電気転てつ器でも転てつ器標識が設けられますが(写真は西上田駅の例です)、
P1010530
転てつ器標識を回転させる動力は同様の理由により、電気転てつ器からではなく先端軌条からとっていると思われます。電気転てつ器から動力をとるようにしてしまうと、動作かんに異常が発生した場合には転てつ器が正常な転換動作を完了しても先端軌条は正しい移動をしない恐れがあり、先端軌条の状態と転てつ器標識の表示が不一致となってしまいますので。

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バックナンバーはこちらからどうぞ。

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コメント

動作稈と鎖錠稈の分担は興味深いです。このシステムですと転換完了をチェックして信号所(コントロールセンター)へ知らせる接点は当然ながら鎖錠稈へ付いているのでしょうね?

C6217さん、今回は機構面ばかりで電気的な話をしませんでしたが、おっしゃる通りと思います。異常があった場合に安全側になる(フェイルセーフ)ような配慮がされていると思います。

 電気転轍器に関しては、最近、細かく解説した入門書がいくつかあるようですが、しかし、ああいうカラクリを思いついた人はすごいですね。
>電気接点
 云われるとおり、鎖錠棹の先端に転極ドラムが繋がっていて、回路の断続と、慌てて反位から定位に戻そうとしても操作を受け付けない工夫があるようです。
 あと、モーターを焼いてしまわないようにメインギアとモーター軸の間にはクラッチが入っていたり、転轍器の黒いケースの中には汽車好きには堪らない仕掛けが詰まっているようです。

質問への説明をありがとうございます。
もうひとつの疑問。開通の反対側から車両が進入して無理やり割り出したとき、どこが破損するのでしょうか。
そのときのセンターへの異常の発信はどこが行うのでしょうか?
これから説明する予定があるのでしたらでしたらごめんなさい。

bad.Ⅳh-95さん、なかなかすごい仕掛けですよね。中を見る機会がないのが残念です。
C6217さん、
>どこが破損するのか
>異常の発信はどこが行うのか
すみません、いずれもよくわかりません(汗)。
破損に関しては、修理しやすい場所をあえて弱くしておく、ということは機構設計上よく行われる方法ですね。

割り出した時は、大体トングレールかトングレールと鎖錠かんをつなぐロッド、あるいはその両方がダメージを受けることが多いですが一概には言えないと思います
そうなると、転轍機の表示が定位も反位も無くなるので異常を検知することができます

名無し信通区さん、ありがとうございます。
トングレールがダメージを受けると結構大変なことですよね。先に記しました通り、修理しやすい個所をあえて弱くしておく、なんてことはしないのでしょうか。

 質問が小出しですみません。
 東海道本線塚本駅の北方貨物線と本線の合流ボイントで本線列車が信号冒進して高速で割り出したことがありました。(約40年前) そのとき、レールは破損がなく、手信号により間もなく運転再開したことを覚えています。
 修理しやすい箇所を弱く・・・というのは納得できます。レールさえ大丈夫なら車両は通過できますから。

 先の送信のように二重発信がしばしばあります。自分では原因不明。パソコンに詳しい方、ご教示いただければ助かります。

C6217さん、背向割出しでもレールは破損しなかったんですね。どこが壊れたんでしょう。
でもそれ以前にATSはどうなっていたんでしょう。入換時ならともかく、本線列車が背向割出しって、大事件のような気が・・・。

たしか、「転轍器の黒いケースの中」ですが、
東武博物館だったかな? 展示してたと思います。
ふたをあけた状態の転轍機があり、スイッチを押すと、ガラガラと動いている様子が見られたと思います。

さくらさん、情報ありがとうございます。機会があれば見に行きたいですね。実際の動作が見れるのはありがたいです。

いつも唐突な投稿、お詫びします。
トングレールを2つの動作かんで転換するのは12番曲線クロッシング仕様、及び16番分岐器(関節、弾性とも)のいずれかです。16番関節ではトングレール長が9.1m、12番曲Cと16番弾性では12.8mと長く、確実な転換を期したのだと思われます。
動作かんと鎖錠かんの逆転についてはこのサイトで初めて知りました。通勤時に気をつけて観察してみようと思います。

キハ65さん
新情報ありましたらよろしくお願いします。

 現物を見ると、転換用ロッドはごついのに鎖錠用ロッドはずっと華奢に見えます。目的からいうとどちらが重要なのでしょう。
 それとも背行割出しがあったとき、破損して転換を許すためでしょうか。

そのような意図をもって設計されているのかどうかはわかりませんが、脱線よりは転てつ器の破損のほうが被害が少ないですよね、きっと。

分岐器の鎖錠機構についての記事を見つけましたので、紹介します。

割り出し可能な転てつ機 - [鉄道総合技術研究所]文献検索
bunken.rtri.or.jp/doc/fileDown.jsp?RairacID=0004005316

ゲレンクはクランクのドイツ語なんだそうです。
外国では、割り出し可能が多いそうです。日本で割り出し可能でない理由も書かれています。

*****

こちらは、分岐器のメーカーのサイトです。いろいろな分岐器の図面が載っています。

www.yoshiwara.co.jp/products/pdf/higashi/all.pdf

分岐器用品のカタログです。

http://www.yoshiwara.co.jp/products/pdf/branchers.pdf

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