熊ノ平のスイッチバック
熊ノ平配線図の記事で、KASAさんより入換標識についての情報をいただきましたので、「鉄道青春時代 上信越線」に記載されている配線図に、各種趣味誌に掲載された写真からの情報をもとに転てつ転換機を追記した図を作成してみました。
KASAさんのコメントの通り、熊ノ平駅には入換標識3Rと4Lが設けられています。パッと思い浮かぶのは、おそらくこれらの入換標識は列車が後退するときに使用するものであろう、ということですね。
そこで熊ノ平でスイッチバックする下り列車を例に、スイッチバックの際の手順の一部を想像してみます。あくまで想像です(汗)。
1)下り列車が下り本線に進入し、出発信号機2Lの手前でいったん停止する。
●2Lは停止を現示していますので、進入してきた列車は停止を現示している2Lを無視してその内方に進入することはできないと思いますので、まずは2Lの手前で停止するはず。
2)軽井沢方の転てつ担当Aさんは転てつ器51を定位にする、もしくは定位であることを確認した後、操車担当さんに合図を行う。
●操車担当さんが合図を出す相手はおそらく本務機関士さんだと思いますので、操車担当さんは横川方にいるのかな、と思います。
3)これを受けて操車担当さんは機関士さんに前進の合図を行う。
4)これを受けて機関士さんは列車を2Lを超えて下り突込線に前進させる。
5)横川方の転てつ担当Bさんは列車が前進してその最後部が転てつ器22を通過し終えたことを確認した後、操車担当さんに合図を行う。
6)これを受けて操車担当さんは機関士さんに停止の合図を行う。
7)これを受けて機関士さんは列車を停止させる。
8)転てつ担当Bさんは22を反位にした後、信号扱所にいる信号担当さんに合図を行う。
9)これを受けて信号担当さんは入換標識3Rを反位にする。
●これにより22は反位に鎖錠される。
10)操車担当さんは3Rが反位の表示であることを確認した後、機関士さんに後退の合図を行う。
11)これを受けて機関士さんは列車を後退させる。
12)転てつ担当Aさんは列車の最前部が2Lの手前まで来たことを確認した後、操車担当さんに合図を行う。
13)これを受けて操車担当さんは機関士さんに停止の合図を行う。
14)これを受けて機関士さんは列車を停止させる。
といったところでしょうか。
実際には操車担当さんと横川方の転てつ担当Bさんは兼務かもしれません。またほとんどの場合は上下列車が交換するケースでしょうから各職員さんの作業はもっと複雑になるでしょうし、列車の前後進/停止も4台の機関車での作業ですから機関士さん間の意思の伝達(ホイッスル?)も大変そうですね。
ここで疑問は、列車は到着後、前進、後退の入換を行うわけですが、入換標識が設けられているのは後退側だけだということです。前進側には入換標識は設けられていなんです。
前進・後退の入換作業において防がなければならないのは対向列車との衝突です。後退の場合、仮に入換標識が設置されていませんと転てつ器22は何ら鎖錠されない状態のため、転てつ担当Bさん1人が勘違い(22が定位なのにこれを反位と勘違い)をしただけで衝突が発生する危険性があります。入換標識を設けることにより信号担当さんを含めた2重チェック体制(22が反位でないと3Rは反位にできず、結果操車担当さんが機関士さんに後退の合図を行えない)にしているのかな、と思います。
これに対し軽井沢方は、仮に対向列車がある場合は場内信号機2Rで51は定位に鎖錠されますので、転てつ担当Aさんが勘違いしても51が反位に転換されることはありません。対向列車がない場合は51は鎖錠されませんが、最悪転てつ担当Aさんが勘違いしても対向列車と衝突することはない、ということでしょうか。
一般的には入換標識が設置されるのは動力転てつ器が使用される場合が多く、現場扱いの転てつ器を入換標識で鎖錠するケースは稀のように思います(何で目の前の転てつ器をわざわざ遠く離れた信号扱所で鎖錠するの?ってことですよね)。熊ノ平の場合は旅客が乗り込んだ列車の入換のため、万全を期して入換標識が設置されたのではないかと思います。(あくまで想像です(汗)。)
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初めまして、いつもROMばかりで申し訳ないので
今回コメントさせていただきます。
日本国有鉄道では入換標識を設置する基準がありまして当方の持っている資料(交友社発行 信号改訂16版)によると
運基第126条
1)旅客の乗り込んでいる車両の入換をするとき。
ただし、第2種継電連動装置を設けた停車場で、その作業がひん繁でないときは設けない。
2)動力転てつ器を使用するとき、ただし、第1種継電連動装置(鎖錠てこ式)を設けた停車場の場合は設置しない。
3)本線,または構内運転をする線路にある転てつ器、または交差箇所を経由する作業がひん繁なとき。
4)同一線路に対して競合作業がひん繁なとき。
5)その他、必要と認めるとき。
となっています。
熊ノ平駅の場合はご指摘のとおり、
1)旅客の乗車している車両の入換 と
3)本線にある転てつ器を経由する作業がひん繁なとき
が該当します。
ちなみに余談ですが「現場扱いの転てつ器を入換標識で鎖錠するケース」は今でもJRのある駅に現存しています。ただし、今後使用する機会はもう無いと思います。
投稿: はぐれ鉄非電化派 | 2014年9月18日 (木) 23時59分
入換標識が進行方向後ろ側にしかない件について。
私の想像では、操車さんは進行前側にいて、入換合図は下りを例にするなら軽井沢方の前補機運転士に対してしていたのではないかと思ってます。
ブレーキ操作できる人に対して合図するのが一番理屈にあってるかなあ、と。
(横川方3両軽井沢方1両のED42の場合、ブレーキ扱いは軽井沢方の前補機担当で良いんでしょうか。違ってたらこのコメントで言ってること的外れになりますが)
で、到着車両をつっこませる時は目の前にポイントがあり目視できるので入標不要、後退させるときは目視できないので入標を設置した、と考えますがどんなもんでしょう。
あと、入換の時って各機関車相互間の汽笛合図ってやるんですかね。平地での入換なんだから、一両だけノッチ入れれば十分ではないかという気がしますが…
往時を知る方のお話を伺いたいですね。
投稿: 名無し信通区 | 2014年9月20日 (土) 14時58分
はぐれ鉄非電化派さん、コメントありがとうございます。旅客が乗っているときはより高い安全性が求められるのでしょうね。
名無し信通区さん、雑誌に掲載された入換作業の様子を描いた記事をまとめて、別途記事を作成しますね。
投稿: f54560zg | 2014年9月21日 (日) 15時03分
はじめまして。熊ノ平の記事をたいへん興味深く、楽しみながら拝読致しました。
下り列車の到着、後退、出発時の列車の動きに関した文書が手元にありました。1997年9月発行の「碓氷峠」(アールエムモデルズ9月号増刊)という書籍の179ページから182ページにかけて記載がありました。国鉄横川機関区OBで中屋栄氏によるものです。
詳細に書かれている中で、熊ノ平到着時に出発信号機手前で一度停車したとの記載はありませんでした。また、ブレーキ扱いは横川方の本務機関士が行っていたようで「先頭の第三補機の機関士は停止目標が近づくので無意識のうちに単独制動弁の把手を握っている。ほどなく最後部の本務機の制動扱いによる排気音を感知して、ほっと気持ちが和らぐ。」とあります。
突込み線は安全側線のような機能ですし、そのまま進入だったのかもしません。設置されているのは本線の出発信号機で、突っ込み線は「場内」という扱いでしょうか。
本務機関士は分岐器の内側に入ったところで列車を停止させ、入換信号機の進行現示を確認後押し下げ線へ汽笛吹鳴し進入。この時の汽笛合図に補機たちが呼応したようです。
そして「第三補機の機関士が本線への分岐器の内側に入ったところで短急汽笛三声を送り、本務機に制動手配を促す。」とあります。列車は所定位置に停車。交換列車を待って発車。
出発時を要約しますと、分岐器付近の第三軌条のない飛切り区間、アプト式区間のエントランスでの制限速度、やがて来る66.7‰の急勾配・・・とたてつづけに困難が待ち受けています。4人の機関士が文字どおり一体となって協調をとらないと列車を勾配線上に停止させてしまうことにもなりかねないとのことです。先頭の第三補機が客車と本務機関車側の3台の全重量を支えなければならない瞬間もあり運転の難しさが語られています。
進入時の話しに戻りますが、出発信号機で停車すると、飛切り区間があったり、本務機関車が勾配の途中だったりと再起動の困難があると思います。よって、突込み線にはそのまま進入で間違いないと思います。
※本稿はRM1986年6月号を再録したものです。とありました。
当時の運転スタイル、見てみたかったです。
一日中いても飽きないことでしょう。
長くなりました。失礼致しました。
投稿: TOBBY | 2021年2月27日 (土) 13時50分